「あなたは殺してはならない」という十戒の第六戒を聴くときに私たちが心に留めるべきことは、実際の統計においては、殺人事件による死亡者数よりも、自分で自分を殺す、いわゆる自死者のほうがはるかに多いという事実です。それゆえ、この戒めは、まず第一にこの視点から聴くべきでしょう。
キリスト教会の2千年の歴史において、長い間、自死は大きな罪とされてきました。神が与えてくださった大切な命を自分の手によって絶つという罪であり、命を支配しておられる神に対する越権行為だからです。カトリック教会では、自死者の葬儀は認められませんでした。
しかし、自死のほとんどは追い込まれた末になされるものです。それゆえ、自死を考えるときに大切なのは、自分を殺すという加害者としての側面だけでなく、被害者、あるいは犠牲者としての側面を持っているということです。自死者の多くは、自らを殺す前に、すでに自分の内面は死んでしまっている、周りの人や環境によって殺されてしまっている、という事実があります。
それゆえ、この「殺してはならない」という戒めは、共同体社会に対して、自死者を生み出すような社会を形成してはならない、という意味を持ちます。なぜなら、社会を構成する私たち一人一人が持っている価値観は、自死という面においても内なる殺人を生み出しているからです。自分など価値がないと見捨ててしまうことがあります。しかし、キリストは、価値なき私たちのために十字架で命を捨ててくださいました。だからこそ、私たちは自らを尊んで生きていくのです。
(仙台南光沢教会牧師 佐藤信人)